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 永遠の一瞬


2009 カカ誕 [ オンリー配布ペーパーより再録 ]

 失くしかけてから気付くって真実だ。

 カカシ先生は確かに一度死んだ。仙術を覚えたオレには途絶えた気配があまりにも鮮明で、それを認識してしまった時の抉り取られたような胸の痛みは決して忘れられない。結局ペインのお陰で先生は生き返ったけど、そんなんはケッカロンってやつだ。先生は死んだのだ。オレのいないところで、オレの手の届かない時に。
 どうしよう。あの時、実はオレの頭はそれで一杯だった。これから、この先。どうしよう。先生もオレも忍びで、いつ死ぬともしれない世界に生きてるってこと、知っていたけどカカシ先生だけは別だと思っていた、ことに気付かされた。里を、エロ仙人を、カカシ先生をぐしゃぐしゃに踏み躙ったペインに対する怒りで頭を染め上げていなければ、オレは恥も外聞もなく蹲って喚き散らしていただろう。いつだってオレは一人縮こまってやり過ごして、また意地でも立ち上がって歩き出したものだけれど、その時ばかりは多分立ち止まってしまったら二度と立ち上がれなくなるような、どっか抜けちまったような心持ちだった。我ながら結構ぎりぎりだったと思う。今思い出しても背中がぞっとする。それ以上考えると冷たい真っ黒なものに飲み込まれてしまいそうだから考えるのをやめにした。
 縁起でもないこと考えちまうのは、今日が先生の誕生日ってやつだからかもしれない。先生は三十一歳になったよ、って笑った。オレと先生が付き合いだしてから四回目の誕生日だけど、オレはエロ仙人と修行の旅に出たりしてたから、実はゆっくり過ごすのは二回目なのだ。初めての時はそりゃーもう緊張した。しまくったもんだった。だってオレってばまだカカシ先生がオレのこと好きだなんて信じきれていなかったから、ううん信じてはいたんだろうけど、ずっと続くだなんて想像すらしてなかった。すっげーすっげー幸せで、幸せだから、いつかもういらないって言われてもそれでいいやって思ってた。今考えたら、真剣だったカカシ先生に対してひでぇことしてたんだと思うけど。そん時はとにかくイッパイイッパイで、イルカ先生に教わってへたくそなケーキ作ったりして、そんでイルカ先生のとこ入り浸ってたからカカシ先生にヤキモチ妬かれて泣くほど嬉しかったことだけははっきりと覚えている。旅先でのカカシ先生の誕生日は、里に戻ることなんて出来ないからエロ仙人の定期報告と一緒にメッセージカードを贈ってもらった。返事と一緒にオレの誕生日を祝うメッセージが入っていた時にはエロ仙人の前でうっかりわあわあ泣いてしまって、後々散々からかわれた。それでもあの細くて少し右上がりな字を見るだけで、修行でくたくたになった体も、先生に会えない心細さも吹っ飛んで、先生が自慢できるような忍になってやると心が奮い立ったものだった。カカシ先生がいてくれるから、オレは頑張れたのだ。先生。カカシ先生。先生と一緒に迎えられる誕生日がこれほど特別だなんて、オレは知っていても理解はしていなかったんだろう。先生を失って、取り戻して分かるなんてオレは相変わらずドベだ。
 だからオレは心を込めて先生を祝う準備をする。
 先生の好きな秋刀魚を焼いてナスの味噌汁を作って、会合にでてた先生を出迎えてお帰りなさいと笑ってキスをした。それだけで先生がすごく、幸せそうに笑ってくれたから、オレは飛び上がりそうなくらい嬉しいと思った。来年もまたこうやって一年刻んだことを祝えればいい。先生が蕩けそうな目でオレを見て、抱き締めてくれた。お前も一緒にいることが大事だよ、って囁かれて目が熱くなった。カカシ先生。大好き。って言ったらぎゅうぎゅうに抱き締められて、少し痛かったけど、幸せの痛みってやつだろうかって思って、顔が緩んだ。


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